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梅野研究室は原子シミュレーションや第一原理解析によりナノ材料の力学物性とマルチフィジックスの研究を行っています.

東京大学生産技術研究所

革新的シミュレーション研究センター 梅野研究室

Project-driven research topics

固体酸化物形燃料電池燃料極の原子モデリング(CREST)

固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell; SOFC)は最もエネルギー効率の高いエネルギー源の一つとして,次世代の主力候補と期待されています.本研究ではアノードに着目し,高温でのオペレーションのため避けて通れないシンタリング現象による三相界面密度低下や,三相界面における化学反応,サーメット酸化還元のメカニズムを明らかにするため,第一原理解析,古典分子動力学解析,反応分子動力学解析(ポテンシャル開発も含む)を行っています.

図:NiO還元の反応分子動力学シミュレーション

構造用樹脂材料と複合材料のマルチスケール解析(ImPACT)

自動車や航空機などへのプラスチック系複合材料の投入が加速度的に行われるようになってきており,ポリマーの強度特性の理解や,強度とタフネスを兼ね備えたポリマー材料設計方針の確立が求められています.我々は,粗視化分子動力学法を援用したボトムアップ型マルチスケール解析により,原子モデルに基づいたシミュレーションによる材料構成式の取得に取り組んでいます.また,ポリマー材の亀裂進展の有限要素法(FEM)解析を行い,実験を良く再現するモデルの構築と亀裂進展メカニズムの解明を目指しています.

図:ゴム亀裂速度転移モード現象のFEMによる再現に成功

耐環境セラミックスコーティングの損傷解析(SIP)

耐環境セラミックスコーティング(EBC)の信頼性評価を支援するため,EBC積層構造の界面き裂問題の有限要素法解析を行っています.

General research topics

固体の理想強度解析

理想強度とは,完全結晶に理想的(均一)な変形を加えた場合の限界強度と定義されるものです.マクロ材料では欠陥が破壊の起点となるため理想強度と比べはるかに小さな強度しか持ちません.しかし,欠陥を含まない微小材料の強度は理想強度に近くなることが指摘されています.また,たとえば完全結晶からの転位発生応力は理想せん断強度に近くなるなど,塑性変形の素過程の理解のためにも重要な指標となります.本研究室では,このような材料の基本的力学特性を明らかにすることを目的として,第一原理密度汎関数理論による計算を用いて結晶材料の理想強度解析を行っています.

結晶の理想せん断強度解析
 転位発生は局所的には結晶格子のせん断変形と考えることができるため,その発生条件は結晶の理想せん断強度(理論臨界せん断応力)と関連性が強いと考えられます.そこで,シリコンやシリコンカーバイドを対象に,理想せん断強度を第一原理計算により定量的に評価し,原子間結合(電子密度分布)の変化とせん断変形の相関性について議論しました.
[Materials Science and Engineering: B, 88-1(2002), pp.79-84]
[Modelling and Simulation in Materials Science and Engineering, 15 (2007), pp.27-37]

圧縮・引張り応力下での理想せん断強度解析
 ナノインデンテーション試験における転位発生では,すべり面に対してせん断応力が働くとともに,圧縮応力が負荷されます.金属では圧縮応力が働くと臨界せん断応力が上昇することが報告されています.つまり,実験で測定される臨界応力について議論をするためには,引張り・圧縮応力が理想せん断強度に及ぼす影響を定量的に見積もっておく必要があります.
 本研究室では共有結合性材料に対して第一原理計算を行い,圧縮応力が臨界せん断応力を上昇させる材料と,その反対の現象が起こる材料があることを初めて明らかにしました.
[Physical Review B, 77 (2008), art. 100101R]
[Journal of Physics: Condensed Matter, Vol. 23 (2011), art. 385401]



SiC・GaNの理想強度解析
SiCやGaNはパワー半導体デバイスに用いられる代表的な結晶材料です.パワー半導体デバイスでは界面において大きなミスマッチや熱応力が生じ,それによってマイクロクラックが生じることなどが深刻な問題となっています.それゆえ,SiCやGaN結晶の破壊メカニズムを原子レベルから解明することが求められていますが,これらの結晶についてはこれまで第一原理による理想強度解析があまり行われておらず,強度特性に関する基礎的知見が不足していました.そこで我々は,SiC・GaNの理想引張・せん断強度解析を行いました.多軸応力の効果を明らかにするため,引張り理想強度に及ぼす横方向垂直応力の影響,ならびにせん断理想強度に及ぼす静水圧応力の影響についても考慮しました.[Computational Materials Science 109 (2015) pp.105-110]
ナノ薄膜の引張り強度解析
様々な構造が強度低下にどの程度影響を及ぼすのかを検討するため,シリコンナノ薄膜を対象に第一原理引張りシミュレーションを行い,(100) 理想表面が強度に及ぼす影響を検討しました.[Physical Review B, 72 (2005), art. 165431]
また,表面にステップを有する薄膜についての強度についての検討を行いました.[International Journal of Materials Research (formerly: Zeitschrift fuer Metallkunde), Vol. 100 (2009), pp. 822-825]
理想せん断強度に及ぼす温度効果
現実ではモノは有限温度下で変形するため,絶対零度下の理想強度評価とは乖離が生じます.上記のような理論強度解析と実験で測定した臨界応力に乖離があるとき,それが欠陥などに由来するのか温度に由来するのかが不明でした.そこで,「欠陥を含まない理想構造」に対して,有限温度下での理想変形シミュレーションを行うことにより,純粋に温度が強度に及ぼす影響を検討しました.[Physical Review B, Vol. 84 (2011), art. 224118]

材料の原子レベル構造不安定性の研究

 塑性変形の素過程は,転位や双晶変形など原子配列の「ずれ」であるので,材料の変形の性質を明らかにするためには,究極的には原子レベルで考える必要があります.転位のような現象は,局所的な原子構造が不安定になって生じたものと理解することができます.そこで本研究室では,結晶材料の構造不安定性の発現メカニズムを原子レベルから明らかにすることに取り組んでいます.
 我々は,任意の原子構造体に対して「厳密に」構造不安定性を評価できる手法(Atomistic Structural Instability Analysis; ASIA)を提案し,様々なナノ構造の構造不安定問題に適用することで,塑性変形のメカニズムの本質に迫ろうとしています.
[Computational Materials Science, Vol.29-4 (2004), pp.499-510]
[Materials Science and Engineering: A, Vol.379/1-2 (2004), pp.229-233]
[Materials Science and Engineering: A, 462/1-2 (2007), pp.450-455]
[Physical Review B, 80 (2010), art. 104108 (11 pp)]
[Key Engineering Materials, Vols.592-593 (2014), pp.39-42]

強誘電メモリと圧電材料の解析

 強誘電体とは,原子の位置が理想配置から少しずれることによって自発的に(外力や電場の作用なしに)電気分極を持つことができる材料のことです.この性質を利用すれば,微小なメモリデバイスの素子を作ることができます.電極薄膜で強誘電体をサンドイッチすることにより,不揮発性メモリ(電源をオフにしても情報が消えない)として機能することがわかっており,超省電力のメモリデバイスとして応用が期待されています.
 我々は,第一原理計算を用いることで,この薄膜構造を理論的にはどこまで薄くすることができるか,電極材料を違うものに変えるとどうなるのか,といった,設計上欠かせない特性を解析しています.
[Physical Review B, 74 (2006), art. 060101R]
[Physical Review B, 80 (2009), art. 205122 (8 pp)]

カーボンナノチューブの変形と物性

 カーボンナノチューブに変形を加えることで電子のバンド構造が変わり,電気的特性を変化させることで新奇のナノデバイスに応用することが考えられます.そこで,軸方向引張りや半径方向圧縮による変形挙動とバンドギャップの変化を計算し,外力負荷による電気伝導性変化の性質を明らかにしました.
 また,多層ナノチューブに圧力を加えることでしわ状の構造が現れる現象についても原子シミュレーションを行っており,センサなどの新たなデバイスへの応用可能性を検討しています.
[Computational Materials Science, Vol.30/3-4 (2004), pp.283-287]
[Computational Materials Science, Vol.31/1-2 (2004), pp.33-41]
[Mechanics of Advanced Materials and Structures, Vol. 22-6 (2015), pp.423-427]

磁性材料の第一原理解析とひずみ効果

 磁気記憶デバイスやスピントロにクスへの応用が期待される磁性材料は最も注目を集める機能性材料の一つです.微小デバイスでは界面のミスマッチ等により高ひずみ状態となりうるなどの理由から,ひずみ(応力)の磁気的特性への影響を検討することが求められています.本研究室ではこれまで,第一原理解析を用いて,有機質強磁性半導体やハーフメタリック材料を対象に引張り(圧縮)やせん断ひずみ下での磁気的特性変化のメカニズムの検討を行っています.たとえば,有機質ネットワーク構造を持つ材料では,せん断ひずみを与えるとネットワーク要素が回転することでせん断ひずみを吸収し,それぞれの要素構造はほとんど変化しないため磁気的性質はあまり変わらないなど,興味深い結果が得られています.
[Journal of Physics: Condensed Matter 24 (2012), 245501 doi:10.1088/0953-8984/24/24/245501]
[Journal of Materials Research, Vol. 28, No. 12 (2013), pp.1559-1566]

金属表面の帯電による表面応力変化の解析

ナノポーラス金属を電解液中に浸し,帯電させることによって金属の収縮が起こるという現象が報告されています.これは表面帯電が金属の表面応力に影響するためと考えられます.我々は第一原理計算により,帯電が金属表面応力に及ぼす影響を理論的・定量的に評価し,そのメカニズムを解明しました.
[Europhysics letters, Vol. 78 (2007), 13001]
[Europhysics letters, Vol. 84 (2008), 13002 (6 pp)]
[Physical Review B 85 (2012), 125118 (5 pp)]

シリコンカーバイド(SiC)の積層欠陥エネルギー評価

半導体パワーデバイス等への応用が期待されるSiCの製造製造プロセスで,様々な構造欠陥が導入されてしまうことが問題になっています.そのため,構造欠陥を減らすためのエンジニアリングが重要であり,そのためにはSiCの構造欠陥特性(欠陥エネルギー等)を理解することが必要です.我々は,3C-SiCの積層欠陥エネルギー,積層欠陥生成によって発生する応力,窒素元素添加の影響などを第一原理解析により定量的に評価しました.
[Physica Status Solidi (b) 249, No.6 (2012) pp.1229-1234, DOI: 10.1002/pssb.201147487]

固体酸化物型燃料電池の原子レベル解析

固体酸化物形燃料電池は次世代の主力電源の一つとして注目されています.我々は,原子モデルシミュレーションを用いてアノードのシンタリングによる三相界面密度減少問題および電解質の酸素イオン電導性評価に取組んでいます.電解質として広く用いられるYSZについて,酸素イオン拡散および相変態を高精度で再現するdipoleモデルに基づいた原子間ポテンシャル関数の開発に成功しました.また,これを用いたNi/YSZ系の分子動力学解析などを行い,Niシンタリングに及ぼすNi/YSZ界面方位の影響などを調べています.
[ECS Transactions 57-1 (2013) pp.2799-2809]
[ECS Transactions 57-1 (2013) pp.2811-2819]
[Journal of Physics: Condensed Matter 27 (2015) 015005 (9pp)]
[Solid State Ionics 279 (2015) pp.46-52]

多元系原子間ポテンシャルの作成

信頼性の高い原子シミュレーションを行うためには,精度の高い原子間ポテンシャル関数の構築が必要です.特に,複数の材料物性を同時に高精度で再現できるポテンシャルの構築が求められています.そのためには,関数形をやや複雑にして,原子が置かれる様々な環境(例えば,結晶,表面など)に対応できることが必須となります(環境非依存性,transferabilityと呼びます).本研究室では,ADPモデル(金属性結合状態・共有結合性状態のボンド表現を含めた関数),Dipoleモデル(酸化物などで顕著となる原子周りの電気分極を表現可能な関数)などを中心として,ロバストなポテンシャル関数の開発を続けています.YSZ(イットリア安定化ジルコニア),ネオジム磁石結晶,SiC,スズ等に対して良好なポテンシャルの開発に成功しています.
[Journal of Physics: Condensed Matter 27 (2015) 015005 (9pp)]
[Modelling and Simulation in Materials Science and Engineering, Vol. 22, No.6 (2014), 065014]

図:ネオジム結晶とその界面構造を記述可能な原子間ポテンシャルを開発